鍼灸を科学的解説

線維筋痛症に対する鍼の効果

線維筋痛症とは

1. 原因不明の全身疼痛を主症状とし、不眠・うつ病などの神経精神症状、過敏性腸症候群・逆流性食道炎・活動性膀胱炎などの自律神経障害を呈する病気である。
2. 有病率は人口比1.7%で、50歳を中心にあらゆる年代で認められ、男女比は1:4.8と女性に多い。また、鍼灸院に来院する患者の10%程度が線維筋痛症の可能性がある。
3. 線維筋痛症の病態は不明であるが、その一つに下行性疼痛制御経路の障害であると考えられている。
4. ガイドラインでは、薬物治療や運動療法、認知行動療法と同様に、鍼灸治療の推奨度は高い
5. 線維筋痛症に対する鍼治療では、鍼通電治療が効果的とされており、ある程度治療を重ねることで1ヶ月程度効果を持続することが可能であるが、それ以上の効果は現時点では説明されていない。
6. 鍼治療のメカニズムは、鍼通電を介した下行性疼痛抑制系の賦活によるもので、様々な内因性鎮痛物質が痛みをコントロールしているものと思われる。

線維筋痛症に対する鍼灸治療のメカニズム

鍼灸治療が線維筋痛症の痛みに対して効果的な理由としては、生体内の鎮痛系と大きく関係しているものと思われる。一般的に鍼や灸の刺激は細径線維の受容器であるポリモーダル受容器を興奮させることが知られており、Aδ線維やC線維といった神経線維を介し、脊髄後角を経由して延髄大縫線核や中脳水道周囲灰白質などを活性化させ、下行性疼痛抑制系や広汎性侵害抑制調節(DNIC)などの鎮痛機構を賦活させることが報告されている。

また、これらの鎮痛機構には内因性オピオイド物質が関与していることが報告されているが、鍼通電を行う周波数により2Hzではβエンドロフィン、2/15㎐ではエンケファリン、100Hzではダイノルフィンといったように、異なる鎮痛物質が放出されていることが知られている。さらに、周波数によってはセロトニンなどの物質が放出されているとの報告もある。実際の線維筋痛症の治療は、マニュアル刺激に比べて鍼電通が効果的であることを考えると、これらの内因性鎮痛物質が何らかの形で鎮痛効果を発揮しているものと考えられており、刺激方法を変えることで様々な鎮痛機構を賦活することから、治療に際しては様々な周波数の刺激を試みる必要がある。

一方、線維筋痛症患者は痛み以外にも様々な症状(不定愁訴)を訴えていることが知られているが、鍼灸刺激には体性―自律神経反射(体性―内臓反射)を介して各臓器の機能調節をすることや、NK活性やサイトカイン産生に影響を及ぼすなど、自律神経系や免疫系にも作用することが明らかとなっている。さらに、鍼灸刺激により前頭前野・側坐核・線条体・中脳黒質・海馬・扁桃体などでセロトニン量やドーパミン量が増加したとする基礎的な研究も数多く存在し、うつなどの精神症状にも有効である可能性が高い。

このことから、鍼灸治療は単なる痛みの治療としてだけでなく、内臓機能の調節や精神ケアまで、様々な症状に対して効果が期待できることから、多彩な症状を呈する線維筋痛症の治療に特に有効であると考えられる。

参考:鍼灸臨床最新科学―メカニズムとエビデンス P221,226,227

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